音楽は常にテクノロジーの影響を受け、その在り方は時代と共に変化している。
誰かが自らの手で木や動物の皮を加工し、楽器を作り奏でた遥か昔の音楽から、今や私たちのデバイスやクラウドの中に収容されたデータとして姿を変えて、今や地球上のほとんどの場所で好きな音楽を聞くことができる。
今回はそんな音楽とテクノロジーの歴史について触れていこうと思う。
果たして今のように多くのテクノロジーが存在しない時代の音楽は、どのように記録されていたのか。一つには口頭での継承が挙げられる。おそらく母から子供に歌い継がれる子守唄などをイメージすると近いのではないだろうか。
今のような記録媒体の存在しなかった時代の楽曲が、自分以外の誰かの脳で記録し継承されていった音楽のルーツを考えるとなかなか感慨深いものがある。
次に人類が紙を使い記述を行うようになり、長期的な保存方法として楽譜が生まれ、その時代のクラシックなどの音楽たちは今でも譜面によって継承されている。
そしてテクノロジーが音楽に大きく影響を与えたのが音楽記憶媒体の存在だ。
1877年の蓄音機の登場である。レコードの技術で「音」そのものを記録し再生する事が可能になったことによって、音楽のそれまでの価値や音楽制作の可能性を大きく広げ、現代音楽の大きな基盤を作成した。
さらには1925年に電子録音の技術が生まれたことにより、レコードの高い需要は1980年代まで続いた。余談ではあるが、近年レコードがコレクターズアイテムとして再評価されているという現状もある。
次にカセットテープの誕生によって、音楽の新たな楽しみ方が生まれた。1963年に生まれたカセットテープは自宅で音楽を録音することが可能になり、自分の好きな曲を集めたオリジナルのミックステープの作成が可能になった。
さらに、Sonyの「ウォークマン」の誕生によって音楽の持ち歩きが可能になり、多くの若者の心を掴んだのだった。自宅でしか自由に選択することのできなかった音楽が、リスナーが自分の好きなタイミングで音楽を選ぶことができるようになり、消費者が編集や選択をするという新たな音楽価値を生み出したのだ。
そしてこれまでの長い間、音楽を支えて来たレコードは1982年のCDの誕生によって時代の終わりを迎えることとなり、1988年にはCDがカセットテープの売り上げを抜いた。
デジタルオーディオ信号処理技術を開発していたSonyと光学方式のビデオディスクの大手Philipsが手を組んだことで開発されたCDはアナログからデジタルへと移り変わるテクノロジーの時代の流れに乗って急成長し、音楽のデジタル化は一層加速していった。
1990年代に入るとMP3が誕生する。
MP3とは?
MP3[MPEG1AudioLayer3]
MPEG1の規格に規定されたデジタル音声データ圧縮方法の1つで、音声データを約1/10に圧縮できる。MPEG1Audioは圧縮率によって3種類に分けられ(レイヤー1~3)その中で最も圧縮率が高いのがこの方法。現在ではMPEG2Audioにも対応している。
データの圧縮は下記の人間の聴覚特性を利用して行っている。
(1)低音域と高音域は感度が低い。
(2)ある周波数帯域の音が大きいと他の周波数帯域の小さな音は聞き取りにくい。(マスキング効果)
(3)大きな音の直後の小さな音は聞き取りにくい。
(引用:デジタルレコーディング用語集)
https://www.weblio.jp/content/MP3?dictCode=DIREY
このテクノロジーの誕生によりデータ伝送が容易になったことと、インターネットの普及により、海賊版の流通へ拍車をかけ、音楽業界へ大きな打撃を与えた。
そして音楽をよりデジタルへと導いたきっかけとなるのが、Appleが2001年、立て続けにリリースした「iPod」と「iTunes」の誕生だ。
このデバイスとプラットフォームの誕生によって、これまで一部の音楽好きだけが利用していたMP3プレイヤー及びデジタル音源を一般層にまで普及させ、現代の音楽嗜好スタイルの元となるデジタル音楽業界を牽引し続けていくかと思われた。
だが、2008年10月、わずか7年の間にまたもや音楽業界を変えるテクノロジーが誕生する。それが、今や世界でトップのシェアを誇るストリーミングサービスSpotifyである。
音楽ファイルをダウンロードではなくストリーミング形式で配信し、デバイス端末に保存できないようにしたことで、海賊版サイトのユーザー数の大幅な削減にも成功したという。
無料会員には広告表示や制限の上、有料会員は定額で好きな楽曲をストレスなく5000万曲もの膨大な数の中から好きな音楽を楽しめるSpotifyの他にも、AppleMusicやLINEMUSIC、AWAなど現在さまざまなストリーミング配信サービスが世界中で生まれ台頭しているのである。
遡ると、脳という記録媒体から現代の膨大な量の楽曲を保有可能なストリーミングサービスに至るまでに、音楽が多くのテクノロジーと共に変化してきたことがわかる。
果たして、加速していくテクノロジーの発展の中で音楽の在り方は今後一体どのように移り変わっていくのだろうか。