昨年の9月29日、NHKスペシャル「AIでよみがえる美空ひばり」が放送された。
YAMAHAが開発した歌声合成技術「VOCALOID:AI(ボーカロイド:エーアイ)」に過去の映像や楽曲を学習させ、テクノロジーの力で故人である美空ひばりを蘇らせたのである。
この技術の開発は、2000年代日本の音楽シーンに新たなジャンルを生み出したとも言えるだろう。
ボーカロイドと言えばバーチャルアイドルの初音ミクや、当時「ハチ」という名義でニコニコ動画で活動していた米津玄師などが有名だが、VOCALOID: AIとは一体何者なのか?
VOCALOID:AIは、ボーカロイドに人工知能を活用した合成音声技術。対象となる声のサンプル提供者の特徴や音色、歌いまわしなどの特徴を、ディープラーニング(AIが分析を行う際に自己学習し判断ポイントをAI自らが推測する技術)の活用により、これまでより精巧な表現が可能になったという。
筆者自身もこれまでさまざまなボーカロイドを使用した楽曲や、実際に小林幸子の声を元に制作されたボーカロイドを使用した楽曲を聴いたことがあるが、そのイメージのままでこの美空ひばりAIを聴いたところ、あまりのクオリティの高さに驚いた。
何も知らない人が無意識に聞いていれば本人と錯覚してしまうのではないのだろうか?
世界中でAIの研究が進んでいく中、ディープラーニングの活用によって人間を超えた能力を持つ特化型人工知能が次々と生まれている。
さまざまな懸念が囁かれる中で、果たしてAIが人間の表現力を超越する時が来るのだろうか?
人間の表現に関してYAMAHAは次のような見解のもとVOCALOID:AIを開発した目的を語っている。
今、世の中では漠然と「AI=人の仕事を奪い去る脅威」と捉えられがちな現実があります。しかし、ひとたび人間に備わった創作への情熱の延長線上にある「表現」という観点に立って考えたときに、AIは人の心を揺さぶる何かを自発的に生み出すことはできるのでしょうか?
それは難しいことかもしれません。なぜならば、AI単体が膨大に蓄積されたデータを機械的に学習しただけで生まれる成果物を「表現」と呼ぶには、あと一歩というところで及びません。
そんな未完成な表現から人の心を動かす「表現」に到達するため、ヤマハ独自のAI技術に志を持つ人たちが向き合いました。VOCALOID:AI™を通じたヤマハの挑戦は、AIという最新技術を感性を携えた人間が活用することで、過去には実現しえなかった新たな「表現」を世に送り出していくことです。
(引用:https://www.yamaha.com/ja/about/ai/vocaloid_ai/)
上記にある通り、人間がAIを活用し新たな表現を生み出すことを目的としているVOCALOID:AI。
クリエイティブの分野では作品を作り上げるまでのドラマや、作者自身の個性など複雑な要因が絡み合い、さまざまな判断が必要になるため、現在ではAIが発展しても完全にAIが代替する可能性は低いとされている。
つまり、AIを活用することで人間のクリエイティビティの向上や新たな表現方法としての可能性を目指しているのだ。
音楽的表現の幅を広げ、新たなシーンとして確率してきたボーカロイドだが、AI技術との融合によってさらに人間に近い表現が可能となった。
大きな可能性を潜めたこのテクノロジーは未来の音楽シーンにどのような影響を与え、アーティストたちに活用されていくのか、今後のシーンの動きに注目していきたいと思う。