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南アフリカの白人貧困層によるカウンターカルチャー「ゼフ」の立役者、「Die Antwoord」

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アメリカ合衆国の諸州では、「プア・ホワイト」と呼ばれる白人層がいる。国家の成長と繁栄に取り残され、社会保障や雇用の不安を持った貧困層の者たちだ。

主に蔑称として用いられるプア・ホワイトは、社会の秩序やルールから逸脱しており、犯罪的で予測ができないような、政治・司法・道徳・倫理観問わず、権威に従わないとみられる人々に対して用いられてきた。

近年ではそういった白人たちがプア・ホワイトを自称し、皮肉的に自分たちの現状を卑下して冗談を言うこともあるそうだ。

そんな「プア・ホワイト」から派生した独自のカルチャー「ZEF(ゼフ)」を生み出した立役者は、南アフリカから生まれた「Die Antwoord(ダイ・アントワード)」というラップグループである。彼らのインパクトは強烈で、一度見たら二度と忘れられないことだろう。


彼らは、「Ninja(ニンジャ)」と呼ばれる男性MC、「¥o-Landi Vi$$er(ヨーランディ・ヴィザー)」と呼ばれる女性MC、そして「DJ Hi-Tek(ハイテック)」で構成されたラップグループだ。

ニール・ブロムカンプ監督の映画「チャッピー」に出演したことで、その名を知った人も少なくないだろう。

南アフリカのケープタウン出身で、自らの音楽性やスタイルを「ゼフ」と呼んでいる。先に述べた「プア・ホワイト」の影響を大きく受けた新興カルチャー「ZEF(ゼフ)」の発祥元だ。


南アフリカにおける貧困層の白人と「ゼフ」


アメリカ合衆国だけではなく、南アフリカでも経済格差は問題視されている。

現在では先に述べた「プア・ホワイト」の対比として、黒人の高所得者層が「ブラック・ダイヤモンド」と呼ばれるなど、その格差と抑圧に嘆く者たちの怒りが溜まっていくばかりだ。もちろん黒人の中にも貧困にあえいでいる人も存在するが、近年では南アフリカにおける黒人優遇措置なども影響し、主に白人たちが苦しむような情勢になっているという。

そんな中で生じたカルチャーが、この「ZEF(ゼフ)」だ。

元々は南アフリカのスラングで、プア・ホワイトを指すネガティヴな意味として用いられてきたようだ。これをダイ・アントワードはシニカルにアートへと変換し、ゼフを自ら名乗ることで時代に叛逆しているのである。

ヨーランディの可愛らしくて幼児的な声から発せられる挑発的なラップは小気味良く、そのキッチュでダークなファッショニスタとしてのビジュアルは耽美的だ。相対するニンジャは、端的に言えば「ダサい」タトゥーを身に纏い、その下品さからインテリとは対照的な雰囲気を持って「何をするかわからない恐怖感」を与えてくれる。

この下劣でジャンクなダイ・アントワードのゼフ・アートは中毒性抜群で、その世界観にハマっていく人が後を絶たないそうだ。

ちなみに二人は本物の夫婦で子供ももうけており、グルーミーやピカチュウなどのキャラクターや、カタカナが書かれた衣装を着用するほどの、大の親日家でもある。そのギャップに、してやられそうだ。


・ニューアルバム『HOUSE OF ZEF』リリース


2020年3月16日、ダイ・アントワードのニューアルバム『HOUSE OF ZEF』がZef Recordsよりサプライズリリースされた。前作『Mount Ninji and da Nice Time Kid』が2016年に発表されて以来、3年半ぶり通算5作目のスタジオアルバムとなっている。

アルバムのメガミックス「MEGAMIX9000」の映像公開


ゲストにPanther Modern、Gqwa!、Bukhuludakhe、Moonchild Sanelly、Smiley、JouMaSePoes、Roger Ballen、Bodajan、Skelm を迎えた全12曲入り。

なお、ニンジャ本人による昨年のツイートで、このアルバムが最後のリリースとなる可能性が示唆されている。彼らが活動を停止しても、ゼフ・カルチャーは少しずつ世界中へと波及し続けるだろうか。

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