Doubtmenとは、プロデューサー・作詞家・映像作家として活動中のK.INOJOと、キーボディスト・サウンドプロデューサー・アレンジャーの青木庸和の2人によるテクノユニット。今年他界した音楽評論家の大伴良則も期待を寄せていたユニットだ。10月5日、Doubtmenは目黒ライブステーションを舞台にワンマン公演「Live Doubtmen vol.1」を開催。オープニングアクトに、アリス十番が登場。この日は、仮面女子の森下舞桜と涼邑芹による実験的音楽ユニットの”まおせり”を迎え、Doubtmen feat.まおせりという形で演奏を行なった。
Doubtmen Doubtmenとは、プロデューサー・作詞家・映像作家として活動中のK.INOJOと、キーボディスト・サウンドプロデューサー・アレンジャーの青木庸和の2人によるテクノユニット。今年他界した音楽評論家の大伴良則も期待を寄せていたユニットだ。10月5日、Doubtmenは目黒ライブステーションを舞台にワンマン公演「Live Doubtmen vol.1」を開催。オープニングアクトに、アリス十番が登場。この日は、仮面女子の森下舞桜と涼邑芹による実験的音楽ユニットの”まおせり”を迎え、Doubtmen feat.まおせりという形で演奏を行なった。
オープニングを飾ったのが、歌謡メタル×ダンスロック・スタイルを軸に据えたアイドルグループ:仮面女子のアリス十番。彼女たちが場内を温めたうえで、ライブはDoubtmenへバトンを繫いだ。
Doubtmenのライブは、青木庸和によるエレピの演奏から幕を開けた。残響しながら浮遊する音色へK.INOJOがサンプラーを用い、音を重ねたす。学校のチャイムの音を合図に、ライブは様々な電子音をコラージュしながら、次第に音楽という形を成してゆく。あらかじめ構築した音の地図へ、2人が様々な音の色を塗り重ねる。テクノ/エレクトロ。確かに、そうだろう。むしろ、2人がいろんな隠し持った音を先出しジャンケンのように地図の上へ次々と広げながら、どんな音の景色が出来上がるかを楽しんでいるようだ。
Doubtmenの演奏へ導かれ、サイバーラビット・コスチュームに身を包んだ森下舞桜と涼邑芹が舞台へ姿を現した。2人は『いつまでもわたしとあなたはここにいる』を通し、韻を踏んだ文節を次々と並べ、人の本能を揶揄するように言葉を連ねだす。2人は口にしていた、「君はズルイね」と。でも、一番ズルイのはDoubtmenだ。まおせりを語り部に、舞台の上に広げた音の地図をフロア中にまで広げ、その地図の上に観客たちを招き入れた。いや、満員の観客たちまでも、2人の描く地図を彩る大切な文様へと変えていた。
森下舞桜と涼邑芹の口ずさむ「Tik-Tak」の言葉とリズムがシンクロ。メンバーらがクラップを求めるのに合わせ、クラップも同期しながらリズムは大きく躍動。楽曲が広大な景観を描くのに合わせ、Doubtmenはこの空間を現実から解き放ち、時間や意識を歪ませる幻想的な異世界へと塗り替える。森下舞桜と涼邑芹が呪文のように「Tik-Tak」と呟き、社会的概念や人の考え方を揶揄した皮肉満載のリリックを大きく手を振りながら投げかける。そのたびにフロア中の人たちも、4人のかけた魔法へ操られるように大きく手を振り、腰を揺らす四つ打ちのリズムに身を重ね合っていた。「Tik-Tak Tik-Tak」の言葉と躍動したエレクトロな音が、感覚を歪ませる。
心地好く気持ちや身体を弾ませる『ごめんね』は、Doubtmen流のパーティーチューン。スタイリッシュでアーバンなダンスミュージックの上で、まおせりの2人が浮遊感を持った声で、この空間をお洒落な都会の夜へと彩りだす。オートチューンを用いた2人の声が、いろんな「好き」をシニカルに表現した言葉の数々を、都会の街中へ電光のように降らしながら軽やかに舞い踊っていた。
それまで華やかに彩っていた空間へ闇を注ぎ込むように、Doubtmenは『タイヘンタイヘン』と歌いだす。現代社会に渦巻く、人として在るための正論と矛盾を、K.INOJOが韻を踏みながら…いや、しゃれた駄洒落に変え、薄汚れた現代社会へ、歌声の絵筆で強烈な風刺の詩を書き連ねていった。
まさに、今の気分は『ごめん、ちょっと何言ってるかわからない』だ。この曲でDoubtmenは、人が持つ本能を赤裸々にさらけ出す。フロア中に響く、恋愛や宗教などへ盲目的に溺れる世の女性たちが、本能のまま、感情的なままに剥きだした汚い本音の独り言の数々。優男になったK.INOJOは一人一人の言葉を受け止めたうえで、最後に「ごめん、ちょっと何言ってるかわからない」と言葉を返していた。心地好いダンス音楽に乗せ、Doubtmenは、人が心に抱えもつ汚らしい欲望をこの曲に映し出していた。中に出てきた、菅元総理や小池都知事が声だかに叫んだ緊急事態宣言の文言にさえ、K.INOJOは「ごめん、ちょっと何言ってるかわからない」と皮肉を述べていた。さすが、世間を嘗めたふりして、世の中が本当に必要な言葉を突き刺すDoubtmenらしいアジテートだ。
『キーラーゴの蜂蜜』からは、ふたたびまおせりが登場。Doubtmenは、可愛いアイドルたちのスウィートボイスをバカンスの風に変え、心地好く跳ねたエクレトロな南国ラテンのビートを通し、観客たちの身体を揺らしだす。まるで楽園を舞台にした快楽と恍惚の小説のような歌だ。でも、その中に隠した痛い刺激をチクッと刺してゆくのがDoubtmenらしいスタイル。今はただ、南国の歌姫たちの声に合わせ、頭を空にしながら心地好くステップを踏みながら浮かれればいい。その快楽の背景に何が潜んでいようとも…。浮かれ騒ぐのも、現実から逃避するのも、人が求める本能。「さぁ、踊ろう!!」。
これまで以上にきらびやかな音がフロア中を駆けめぐる。Doubtmenは『自業自得』を通し、この空間をグリッターな世界へ染め上げた。軽やかに舞い踊りながら、「自業自得じゃない?」と甘い言葉を突き刺す森下舞桜と涼邑芹。この日のように、可愛い女性たちにひょいひょい腰を振ることで、その先に何が起きるのか…。甘い欲望に手を伸ばした先に何が起きようと、それも欲に溺れた人の自業自得。人のせいにしてみずからを守る、人の腐った高慢ちきで自己欺瞞な連中たちの落ちた先の人生を、Doubtmenとまおせりは、「時効理想だよね」と皮肉っていた。それでも欲に溺れた人は、どぶ水を飲んでも反省をすることはない。そしてまた、ド壺(ツボ)に陥る。まさに「時効自得じゃない」か。
さらにビートとリズムは躍動する。森下舞桜と涼邑芹の煽りに合わせ、フロア中に生まれた熱いクラップ。Doubtmenは『そのボタンは押さない方がいい』を通し、簡単に誘惑のボタンを押すなとメッセージしてきた。でも、そのボタンを押す愚かさこそが、人間らしさ。躍動するきらびやかな音の装飾を通し、Doubtmenの2人は感覚を目くらます。その計画を遂行するように、まおせりが「ねぇ、ボタン押さないほうがいい」と歌いながらも、ここにいる人たちの心のボタンを本能のままに押させる。そんな確信犯たちが、そこにはいた。
判断は間違ってはいけない。その先に待っているのは、奈落か、快楽か。最後に、Doubtmenは『間違うな』を演奏。まおせりの2人が大きなフラッグを振りながら「なぜ君は楽しんでるの~わからない」と歌いだす。森下舞桜が、涼邑芹が、ここでもいろんな事例を並べながら「間違うな、後悔するに決まってる」と、欲望と本能に溺れる”君”に、警告してゆく。世の中を動かすいろんなお騒がせ人(政治家や芸能人ら)が、屁理屈めいた理論で武装しながら言葉の弾丸を次々と打ち放つ。その言葉の弾丸をハートに何発くらおうが、君はけっして間違うなとDoubtmenは伝えてきた。君に確かな信念があるなら、世の中を歪ませる言葉の弾丸を打つ連中の言葉などに惑わされるこくなく、自分の道を貫けばいい。そう、自分を間違うな。
アンコールの最初に持ってきたのが、人を構築する細胞(染色体)をタイトルに冠した『DNA』。意識を混濁する破壊衝動の高いエレクトロな音に乗せ、Doubtmenはふたたびまおせりをパートナーに、ハードボイルドなストーリーを描き出す。森下舞桜と涼邑芹が言葉を殴りあうように交わしながら、人の心に刻まれた本能を構築。「すべては決まっている 誰もそれには逆らえない それはD.N,A」と伝えていた。Doubtmenのライブは、1曲1曲触れるたびに自分の今の生き方を、人としてあるべき衿を正した生き方とは何かを考えさられる。でも、その時点で、Doubtmenの策略に落ちていたということだろうか…。
最後に、アリス十番をステージへ呼び込み、全員で『こんなはずじゃなかったのよ』を披露。この日のセットリストは、人の生きざまをいろんな角度から、皮肉を重ねるように進んでいた。最後もフロア中の人たちがメンバーらの動きに合わせ大きく手を振り、身体を揺らしていた。日々、生きていく中で、きっと誰もが「こんなはずじゃなかったのよ」と思うときがあるだろう。そこで落ち込むくらいならDoubtmenの音楽やライブに触れ、自分の心を解き放つ理想郷へ逃げ込めばいい。Doubtmenは、どんな心の色の人たちも受け入れてくれる。ただし、その人の人生のその後は…「こんなはずじゃなかったのよ」と漏らす汚い言葉の後始末は、自分で流してくれ。
Doubtmenとまおせりは、演奏を重ねるごとに、人の本能を次々と浮き彫りにしていった。そのたびに、人工着色料まみれの毒々しい自分の素顔とも向き合っている気分だった。そんなことを書いてるが、ライブ中は、Doubtmenが生み出すエレクトロなダンスミュージックに心地好く身を預け、風刺の効いたまおせりの言葉を耳にしながら、そんな糞みたいな連中にアディオスと手を振っていた。もしかしたら、自分が手を振られていたのかも知れないが…。よく「細かい理屈など気にせず楽しめ」と言うが、Doubtmenの音楽は「細かい理屈や屁理屈まで気にして楽しんでこそ」。心塞ぐ奴らは勝手に塞げばいい。何事も、そう。心を自由するスイッチを押すのは、自分次第。それを、この日のDoubtmenは、さりげなく囁いていた。
次回は、12月15日。舞台は、ふたたび目黒ライブステーションだ。詳細は…。
photo by T.ENAMI
TEXT:長澤智典
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